高齢者の筋力低下の原因について考える
なぜ人は年を重ねると筋力低下するのでしょうか?
今まで普通に生活していた方が1週間寝たきりになってしまっただけで、著明にADL動作に支障をきたすまで筋力低下してしまうのか?
ふと気になりました。気になったので少し原因について調べて考えてみました。今回は、僕なりに調べた高齢者の筋力低下となぜADL動作にすぐ影響するほど弱るのかについて考察していきたいと思います。
高齢者の筋力低下の原因
廃用性筋委縮
1次性サルコペニア
2次性サルコペニア
主に高齢者はこの3つで筋力低下を起こしてしまうことが明らかになっています。まずは、この3つについて順番に確認していきましょう。
1、廃用性筋委縮
廃用性筋委縮とは、長期間の不動により筋体積が減少すること。筋核数の減少と線維化が生じることをいいます。
まず筋合成についてですが、筋は衛星細胞という細胞が分裂・結合をして筋肝細胞になり、その後筋原細胞になり筋の修復を行います。
長期間の不動は、筋衛星細胞が活性化されるタイミングがありません。人の身体は、必要としない機能は衰退していきます。つまり筋衛星細胞数が減少します。筋肉を作る源がなくなれば筋は合成されないため、筋体積の減少と筋力低下を引き起こします。
結果として、筋内に存在する筋核も分解されていく量の方が多いためその数を減らしていきます。筋原細胞がやせ細っていくとその周りの膠原組織が空いた隙間を埋めるように増えていきます。
膠原組織は伸張性が乏しいです。つまり筋肉を構成する組織が伸張性が乏しく、中身のないスカスカな状態になります。これが線維化です。
この状態を見た目上速筋に似ていることから、速筋化といいます。あくまで見た目上の話・・・。こんな筋肉では筋収縮能力が低下するのは想像に難くないですね。
さらに不動1日で筋力は2~4%低下すると言われています。しかし健常者であれば、毎日2%の筋力低下を引き起こしたと仮定して・・・。
臥床1日目を筋力100だとすると1週間後は88.6%は筋力が保たれているはず・・・。
1割弱失ってもADL動作に支障をきたすか疑問ですね。もう少し他の要因も考えていく必要がありますね。
2、1次性サルコペニア
1次性サルコペニアとは、簡単に言うと老化することです。つまり原因は分かっておらず、遅らせることができても完全に止めることのできない要因になります。
要因としては①加齢に伴う性ホルモンや成長ホルモンの分泌低下、②運動神経数の減少、③神経筋接合部の変性があります。一つ一つについてさらに詳しくみていきましょう。
まず性ホルモン(特にテストステロン)と成長ホルモンは筋合成を促すホルモンになります。この性ホルモンの分泌が低下することで筋合成と筋分解のバランス(筋のリモデリング)が崩れてしまい分解が優位となってしまうため筋体積の減少につながってしまうということになります。
2つ目に運動神経数の減少についてです。これは速筋線維、さらに言うと中枢筋の速筋線維の支配神経が減少します。
さらに支配する神経を失った筋線維は遅筋系の神経が支配するよういつなぎ変わります。遅筋系の神経は神経伝達速度が遅く、収縮力の弱い刺激を伝達する神経です。この現象によって速筋系は本来の能力を発揮できなくなり、萎縮していきます。これにより最大筋力は低下します。
筋発揮についてどうして遅筋の神経では速筋の本来の筋発揮が困難になるのか疑問が出てきますね?
その問いについては、サイズの法則と言うのがありますね。これで説明します。
一番閾値が低いのが遅筋、その次に速筋系になります。細かくは速筋系を3つに分けることができますが、そこは割愛(笑)。
筋発揮は必要な筋力に応じて筋発揮を強くしたり、弱くしたりできますね。
例えば肘の屈曲を行ってティッシュペーパーを持ち上げるときの上腕二頭筋の必要な筋力と2ℓの飲料ボトルを持ち上げるときの上腕二頭筋の必要な筋力は大きく異なりますが、サイズの法則で筋活動させる筋の運動単位数をコントロールしますね。
これを生理学的に考えるとティッシュペーパーを持ち上げるときは遅筋系のみを活動させて動作を実施しているのに対し、2ℓの飲料ボトルを持ち上げるときは速筋系の筋まで活動させています。
これは伝達するパルスの頻度と速さで決まります。1つの電位が伝わることを単縮といいますが、これが頻回に送られると大きな電位として筋に伝えられる強縮が生じます。
このでっかくなった電位で速筋系の筋が閾値を超えた際に筋収縮が生じます。遅筋系の神経は閾値が低いので頻度が少ないんですね。だから速筋系はなかなか筋収縮を起こすことができなくなります。だから速筋系は萎縮します。
さらに神経筋接合部の変性についてです。
神経と筋の間にはシナプスを形成していますね。このシナプスにはシナプス小胞というCaイオンを中に収納している小胞があります。神経軸索内にあるシナプス小胞がアクティブゾーンと言われる場所に運ばれてシナプス間隙にCaイオンを放出します。
このアクティブゾーンにシナプス小胞を運ぶたんぱく質が変性し、シナプス小胞とくっつきづらくなることやそもそも数が減ってしまうことで上手くアクティブゾーンにシナプス小胞を運ぶことができないため筋のシナプスで脱分極が起きなくなるんですね。
つまり速筋の割合が減少し、遅筋の割合が増えるといってもいいでしょう。厳密には違いますが・・・(遅筋よりも持久力のないが、速筋よりも瞬発力に欠け、最大筋力の低下した中途半端な筋が出来上がる)。さらにそもそも神経と筋の間で神経伝達物質のやりとりもできていない状態になります。
高齢者の歩行場面を見て頂くとお分かりになりますが、ゆっくりと緩慢な動作で歩かれている方が多いと思います。
少し脱線しますが、10m歩行などで歩行速度と転倒リスクをみる検査ではこういう視点で持って評価しているんだなと思ったら考え深いですよね。
他の要因もあると思いますが、どれくらい筋肉の老化が進んでいるのかすぐに分かりますね。
この1次性サルコペニア(止めることが困難な要因)の影響で日常生活で必要最低限の筋力まで低下を起こしている。なんとなく高齢者の状態が見えてきましたね。
3、2次性サルコペニア
次に2次性サルコペニアについてです。原因は栄養不足、内分泌低下、インスリン抵抗性、慢性炎症です。原因が分かっているので防ぐことができます。
要因からも推測できるように肥満な方や2型糖尿病の方は2次性サルコペニアのリスクが高くなります。
慢性炎症やインスリン抵抗性はたんぱく質合成を低下させます。そして慢性炎症は、肥満による炎症性サイトカインの働きで生じます。
これらの働きにより高齢者は筋力低下を起こしているわけですね。
4、考察
これらの事実から高齢者の筋力低下考察
高齢者は日常生活を送る中で、1次性サルコペニアを引き起こし筋力が知らないうちに低下している。これにより筋は最大筋力低下と瞬発力の低下が生じている。
さらに代謝の低下や運動不足などで肥満傾向になることや持病に糖尿病があるためにたんぱく質合成を妨げ、生活習慣の影響で2次性サルコペニアを引き起こす。
そして日常の中で何らかの体調不良で臥床を行ったり(廃用性筋委縮)、ご飯が食べられなくなったり(栄養不足)することで日常生活困難な筋力低下状態に陥る。
このような成り立ちで高齢者は、数日から数週間の臥床により日常生活に支障をきたすレベルの筋力低下を生じるのではないかと考えます。
5、最後にちょっと感想
少し文章が多く長くなってしまいました。少し深く掘り下げることで高齢者の健康状態目線で寄り添ってリハビリを行えるのではないかなと思います。
しかし逆に長期臥床がリスクであることや栄養状態を気にしないといけないなとか見るべき視点も広がったかな僕はと思います。
また予防医学は大事だと思いました。そもそもギリギリ生活できるレベルから余力をもって生活できているレベルになれれば・・・。
もし体調を崩して床に臥せっても体調が改善した際にはリハビリを受ける必要がない状態で生活を再開できると思います。
リハ栄養について興味が湧いたので今後調べてまとめてみようと思います。興味があればみてください。
これからもリハビリを効果的に行っていくために基礎医学に基づく根拠をもとにして説明できる専門性を磨いていきたいと思います。
最後まで見て頂いてありがとうございました。今後もいろんな気になったことを探求して自分なりの答えを出していこうと思いますので、よろしくお願いします。