高齢者の筋トレ効率的な負荷量と方法
先日高齢者の筋力低下についてに話しを考察させていただきました。今回は、「じゃあどうすればいいのさ。」という問いについて考察していこうと思います。
ちょっと長いので気になるところだけでもチェックしてみてください。
今日のメニュー
・MMTをもとにした高齢者に必要な筋力
・効果的な負荷と負荷量はどの程度か
・効果的な運動や優先順位
・ちょこっと感想
1、MMTをもとにした高齢者に必要な筋力
まずMMTの6段階をそれぞれ数値化しましょう。MMT5レベルは最大筋力となりますので、100%とします。そこから順番に数値が低くなっていきます。軽く図のような形で紹介します。
MMT5:100%
MMT4:90%~50%
MMT3:40%~20%
MMT2:20%~10%
MMT1:10%以下
MMT0:収縮無し
このようになります。この基準は僕が設定したものではなく、文献で出てきた内容になります。またMMTの文献は調べればすぐに出てきます。エビデンスを気にするのであればググってください。
そして日常生活を送るために必要な筋力はどれくらいなのかについてです。
健常高齢者が歩行に使う筋力は、最大筋力の20%。階段昇降でも30%になります。MMTでいうところの3レベルで実施可能ということです。
しかし最大筋力が健常高齢者の30%しかない場合には、他の記事に書いた通り何かあって長期臥床をした際にADL動作に支障をきたしてしまうことや動作パフォーマンスの低下につながるので余力をもった筋力があることが望ましいです。
次に高齢者に必要な筋持久力についてです。
持久力について考えるには筋の特性について知っておく必要があります。
筋は収縮特性によりS型(遅筋系)・FR型(速筋系)・FF型の3つに分けます。左から順に筋発揮できる力が強くなり、瞬発力も増加、閾値も高くなります。しかし持久力については順番に低下します。
具体的にはS型が10分以上収縮持続可能に対し、FR型は10分まで、FF型は2分しか収縮持続困難で筋疲労します。
そして重要なことがあります。これはサイズの原理に基づき、運動単位の動員数増加とともにS型→FR型→FF型と順番に動員していくわけですね。
逆にいうとFF型が働いているときは、FR型とS型はすでに動員されていることになります。つまり速筋系を使用した動作というのは最大で10分までしか同じパフォーマンスで動作遂行が困難ということです。
これを崩れとリンクさせると、2分以内に崩れが著明に見られたり、ふらつきが出現した場合はFF型まで動員した最大筋力での動作であるということが推測されます。10分以上できたのであれば筋力と持久力が十分にあると判断してもよいかもしれません。
6分間歩行で分かることとしては、FR型での活動が可能な状態で終了となりますので、筋持久力という一点のみの話でいえば不十分かもしれません。だから最大速度で常に運動単位を最大動員した動作で実施して、基準を距離にしているのかもしれませんね。
ここで、最初に言ったMMT3レベルより余力を持った方がいいという話に戻ります。
日常生活場面を想定すると2分で終わらない繰り返し動作もあるかと思います。ですので遂行時間や耐久性という尺度ではMMT3レベルでは実用レベルと言えない場合があるんですね。
つまり日常生活で行う動作速度や方法で歩行であれば10分間継続可能であるのかみるのも一つの方法であると思います。
なかなか臨床で10分間連続歩行するというのは時間的に厳しいこともあるかとは思いますが・・・。
2、効果的な負荷と負荷量はどの程度か
前の記事で説明していますが、高齢者の筋力低下は主に①廃用性筋委縮、②
1次性サルコペニア、③2次性サルコペニアの3つに分けさせてもらいました。
これによって起こる筋肉と神経の問題としていくつか列挙します。
筋衛星細胞数の減少
筋体積の減少
運動単位の動員数の減少
神経筋接合部の代謝低下
この一つ一つの要素に対して対処していかないといけません。それぞれの簡単な説明については前回の記事をご参照くださいね。
ます筋衛星細胞数の減少についてです。
筋衛星細胞は筋修復を行う際に、活性化した筋衛星細胞が分裂と結合を行い筋原組織に最終的になります。つまり筋衛星細胞が減少した状態では筋の修復が遅延する恐れがあることやリモデリングの際に分解優位な状態になってしまうことが推測されます。
筋衛星細胞は筋収縮によって活性化します。負荷量ということではなく筋へ収縮という刺激を与えることが重要なポイントです。
研究では抗重力伸展活動を行うことで筋衛星細胞数の増加を確認したという報告もあります。つまり部分的な運動を行うのではなく全身運動を行うことで全身の筋肉に収縮刺激を加えて筋衛星細胞を活性化することが重要になります。
2つ目に筋体積の減少についてです。
筋核数減少と筋線維数の減少を伴うの線維化が原因ですので、筋肥大を伴う動作が必要になります。よく言われていることとして60%負荷量で素早い運動を実施するとよいと言われます。
原理としては、まず筋の損傷についてですが、筋に適度な負荷を加えると筋のZ帯が歪みを起こします。このZ帯の歪みが筋を微細に割き、損傷を引き起こすわけです。そしてZ帯修復の際に、さらに筋線維を太くして修復したり、Z帯が分裂したりすることで筋核数と筋線維数の増加を伴う筋肥大が生じることになります。
ではここでまたポイントになります。
最大筋力の60%負荷量ですが、その人の最大筋力の60%ということです。
例えばリハビリを行っている対象者がギリギリ立てるかどうかレベルである場合は立位練習は最大筋力に近い負荷量になります。数値にするとMMT3レベルで健常高齢者の30%ほどの筋力だとすると
30%×60%となるため、20%(MMT3)=負荷なしで重力自重のみで素早く運動するレベルでもちょうどいいということです。
もし可能であるのであれば他の部位に問題があるのかもしれませんね。その場合は、評価をもう一回いってみようとなっちゃいますね(笑)
トップダウンの評価については、こちらをヒントになればと思います。
3つ目に運動単位数の減少と同期化についてです。
運動単位数の増加に必要な要素としては最大収縮か素早い運動を行うことがポイントになるます。
イメージできるのではないかと思いますが、最大収縮を行うことでS型からFF型まで同期しないといけないことや素早い運動は瞬発系を動員しないといけないという点からFF型を強制的に動員することになります。
4つ目の神経筋の代謝促進
有酸素系の運動が友好的とされています。または数分間~数十分間の低から中等度の強度の運動は神経筋接合部の代謝を促進することが分かっていることやミトコンドリアの活性化が行えるため代謝効率を上げることができます。
3、効果的な運動や優先順位
重要なことは現状の高齢者の身体特性を知ること。
背景要因と現在の筋力をMMTでどのレベルかを想定したリハビリプログラムの立案と強度の設定を行うことですね。
例えば、歩行困難症例
立つのがギリギリ、歩行困難であれば、その人にとっては最大筋力でMMT2レベル、立てているという事実から健常高齢者の20%以下ではあるけども限りなくMMT3レベルに近い2レベルと判断できます。
さらに臥床傾向が背景にあるとすればその日数毎日3%ぐらいづつ筋力低下していると考えます。また肥満はあるのか、糖尿病の既往歴は・・・。
臥床傾向が続いているのであれば、運動は全身運動で筋衛星細胞の賦活を図るべきか。詳細な評価の上での問題点に絞って筋力トレーニングを行うべきかなど考えます。
肥満や糖尿病によるインスリン抵抗性や慢性炎症の影響を考慮するのであれば有酸素系の運動を取り入れるべきか。
MMT3レベルの負荷量で行きたいが、2次性のサルコペニアを負荷量を上げることで引き起こすのリスクはあるのか。具体的には栄養状態の確認。
このように筋力低下の要因と対処、リスク管理を行いながらリハビリ内容と負荷量を決めていくといいのかと思います。そして最終的に優先順位を決めてリハビリを実施していくことになりますね。
4、ちょこっと感想
いろいろ長く説明をしてきましたが、いろいろ考えた上で結局他のスタッフとあまり変わらない練習内容になることもあります。しかし別に奇抜なことをする必要はないのです。
もし何も考えずに考えられた他のスタッフと練習内容が一緒だったとしてもリハビリ効果という面において、揺るぎない専門的視点からくる大きな効果の隔たりが生まれます。つまり似たようなリハビリ内容の構成であったとしても患者を診る視点が大きく違います。
この違いが患者に与える効果を大きく変化させる1つの要因ではないかと思っています
。
患者から「なんかあの先生にやってもらうと良くなる」とか「あの先生がやってくれると調子がいい」とか言ってもらえるセラピストになりたいですね。
患者様はよく人をみています。誠実にそしてしっかりと考えを持ってリハビリしてくれるセラピストのことは信頼し、その信頼がさらに良好な治療効果を生み出すのだと思います。
そう言ってもらえるようなセラピストに一緒になれるように頑張って研鑽していきましょう。
長々とありがとうございました。皆さんの明日の臨床の何かヒントになればと思います。それではまた何か気づいたことや疑問に思ったことがあったら調べてその結果を報告させて頂こうと思いますので、よろしくお願いします。