brainjack’s diary

解剖学やリハビリなど身体について深く考える。

とあるリハビリの思考過程のログ(呼吸リハ編)

rihabiri こんにちは、脳筋王です。

 

 昨日も臨床を行っていましたが、呼吸状態の悪い人のリハビリを行いました。肺炎になっている方です。SpO2は90%前半で、喘鳴著明、呼吸数は20回/分、両側肺から肺胞呼吸音の聴取はでいませんでした。本人は息苦しさを感じています。

 

 この方の40分のリハビリを行った結果、SpO2は90%後半、喘鳴は改善し、呼吸数は18回/分になり、両側肺から肺胞呼吸音を聴取可能になりました。息苦しさは軽減しました。

 

 今回の症例はとても分かりやすく症状が出ていましたので、紹介したいと思います。

 しかしただ紹介しただけでは面白くなかったので、今回「こんにちは~」から「お疲れさまでした」までに僕が考えたリハビリの思考過程に合わせて紹介したいと思います。

 

1、評価の過程

まずベッドアップ30°で臥床しているのを発見しました。

 

 ここで気になったのが、頭部は前方突出位で頭部伸展と頚部屈曲位になっており、天井を見ていました。

 

 呼吸状態が悪いのは喘鳴が多く、浅くて速い呼吸をしているので分かりました。口は

閉じています。

 

 挨拶をして近くによっていきます。すると頚部の皮膚がパツパツに張っており、胸鎖乳突筋の筋緊張はかなり亢進しているようにみえました。

 

 こうなると頭頚部が動くのか確認する必要があります。

 

 本人に許可をとり頭頚部の屈曲を行いつつ、後頭下筋群の筋を触診を試みました。

後頭下筋群が硬く盛り上がっており、頭頚部の動きは全くできませんでした。

 

 こうなると頭頚部の動きを改善して呼吸状態を改善することは困難です。

 

 なぜ頭頚部の屈曲ができると良いかというと、まずこの方は肺炎の患者様です。唾液の貯留と気管への流入によって生じているという前情報もあります。

 

 肺炎になると酸素交換を肺胞で行いにくくなることや呼吸苦から呼吸補助筋の過緊張を生じて胸郭の動きを阻害してしまいさらに呼吸苦をしょうじてしまうことにつながります。

 

 そして後頭下筋群の筋緊張亢進は、頭部伸展の主動作筋でることと姿勢反射の中の伸展反射が生じてしまいます。

 

 つまり頭頚部のコントロールによって繰り返すリスクのある肺炎を予防することと姿勢反射を抑制して呼吸苦の軽減を図ろうとしたわけですがどうにもうまくいく気がしません。

 

 経験として動かないものや変化しない所に時間をかけても良い結果は得られません。

 

 ですので他の方法を評価しながら試みることにします。

 

 呼吸と頚部のアライメント改善のため、胸郭を触ってみましょう。両側の動きに左右差はありません。

 

 胸郭は下制しているようで、吸気の際に下位肋骨の広がりが少ない気がします。

 

 では下制している原因を調べましょう。まずは胸郭自体の可動性の低下や筋力低下を疑います。

 

 胸郭が下制すると体幹前面筋の筋・筋膜は下方に引っ張られて前斜角筋と胸鎖乳突筋は過緊張します。胸鎖乳突筋の筋緊張は頭部伸展と頚部の屈曲を生じさせます。

 

 また胸骨についてる舌骨下筋が舌骨を引っ張り、嚥下に必要な舌骨の上前方への移動を阻害し嚥下障害につながります。

 

 ですので胸郭の動きが改善し下制した胸郭が挙上した場合は、頚部の筋緊張が改善し頭頚部のアライメントを改善することができます。

 

 さっそく胸郭を動かしてみましょう。

 

 ・・・。少し動きますが抵抗感が強く何かが邪魔しています。1分程度胸郭の拡張を介助してみましたが、呼吸の様子に変化はありません。唯一SpO2は90%台後半まで回復しています。

 

 それでは胸郭の動きを改善すれば呼吸改善が図れることが分かりました。しかし何かが阻害しているようで胸郭を介助するだけでは緩みそうにありません。

 

 では胸郭の動きを阻害している筋を探しましょう。

 

 触診も大事ですが、まずは筋の短縮や筋緊張、姿勢反射の有無などを把握するために大きく動かしてみましょう。

 

 とはいっても、起立性低血圧を起こしやすい患者様であるため、ベッドアップ60°までの範囲で動かします。まず側臥位にしてみましょう。

 

 側臥位は、上側の肋骨は動きをベッドで阻害されないので筋力低下や肩甲骨の動きが低下している場合は改善が図れます。またうずくまるように全身を屈曲できれば姿勢反射もおさまる可能性もあります。

 

 結果は下肢の屈曲は可能でしたが体幹は可動域制限に加えた姿勢反射障害の影響による伸展で屈曲は困難でした。

 

 しかし肋骨の動きは改善していました。ここで僕の中で問題になったのは両側の肋骨の動きが改善していました。

 

 良いことなんですが、仮説と結果が伴いませんでした。とりあえず反対側の側臥位とベッドアップ座位もやってみましょう。

 

 結果反対側の側臥位も同様の結果となり、ベッドアップ座位では姿勢反射も幾分か落ち着き呼吸も楽になった様子でした。

 

 ここから考えられることとして、背もたれがある方が姿勢反射は落ち着くようです。

 

 また股関節の屈曲を行うことで呼吸苦や肋骨の動きを改善することが可能ということが分かりました。

 

 つまり股関節の屈曲筋や体幹前面筋の筋緊張亢進か筋短縮によって肋骨の動きが阻害されているのではないかという仮説が立ちました。

 

 そして同時に股関節伸展筋と姿勢反射で筋緊張が亢進した体幹背面筋は、肋骨の動きと呼吸苦の影響は低く、優先順位としては下位になることが分かりました。

 

 触診してみると、座位になっても腹直筋の筋緊張は亢進していました。腸腰筋・大腿筋膜張筋・大腿直筋は筋緊張が低下していました。

 

 ベッドアップ座位なので1回ベッドアップをもとに戻してみましょう。

 

 筋緊張亢進は腸腰筋と大腿直筋に認め、腹直筋はさらに硬くなっていました。

 

 さらに良く確認すると、腰椎部の屈曲が強まったのか、背中がベッドから浮き上がっています。背中を触診してからベッドアップして60°にします。やはり腰部は臥位で屈曲を強めていました。

 

 この結果から腹部と腸腰筋の筋緊張亢進が肋骨の動きを阻害している要因となっていることが分かりました。

 

 同時に先ほど疑問に思っていた側臥位事件の問題も解決しました。

 

 つまり姿勢反射や筋力低下の影響が強いと思っていました。

 

 しかし実際は腹部と股関節の筋緊張亢進の影響が強く肋骨の動きを阻害していたため股関節を屈曲位にすることで筋緊張亢進と短縮の影響が解消し両側で肋骨の動きが改善したということです。

 

2、評価から治療方針立案と治療部位の決定

 

 ここまでの情報から治療方針を立てましょう。

 

 まず治療方針は、胸郭の動き改善による呼吸状態の改善と頭頚部アライメント修正による肺炎予防です。

 

 さらに細かくみると、頭頚部のアライメントは徒手的に修正は困難。胸郭の動きは徒手的に改善可能でしたが、抵抗感強く修正するには動きの阻害因子の排除が必要です。評価の結果から腹直筋と腸腰筋の筋緊張亢進と短縮が抵抗感の要因になっているようです。

 

よって治療は、まず腹筋群と腸腰筋のストレッチを行い。その後肋骨介助実施。最後に頭頚部のアライメントを修正していくようにリハビリを実施していくことにします。

 

3、リハビリ内容

 

 ①ストレッチを行いましょう。

 

 ベッドアップ座位で腹筋と腸腰筋に手を置きます。その状態で本人に深呼吸を意識して呼吸してもらいます。

 

 ここで本人の意識が不鮮明になってしまった場合があります。脳に酸素が急激に循環したことで一時的に意識低下を起こすことがありますので注意が必要です。

 

 呼吸を行うことで胸郭が挙上します。腹筋は伸張されますが、腹部を軽く圧迫することでさらに伸張することができます。

 

 そして腸腰筋は横隔膜に付着しています。呼吸をすることで横隔膜が収縮・弛緩し腸腰筋の筋膜も滑走します。

 

 自動的な運動は、筋緊張の改善には有効です。

 

 また呼吸が速い場合交感神経も亢進し優位になっています。深呼吸を行い副交感神経を優位にすることで筋緊張の緩和を行うことができます。

 

 圧迫を行っている筋の緩み(少し手のひらが沈み込む、筋の滑走など)をを感じたら次に胸郭を動かしていきます。

 

②肋骨の後方回旋を介助しましょう。

 

 今回の胸郭介助は、吸気の介助を行います。詳しい方法はまたの機会にしますが、問題となっているのは胸郭の拡張です。

 

 胸郭の動きが改善されたら次になります。

 

 ③頭頚部の屈曲を行います。

 

 ここでも自動介助運動を行います。先ほどよりも可動域が改善し、少し動きを出すことができました。

 

 今回はここで40分経ちました。次回は評価を省けるのでもう少し時間に余裕が持てると思います。さらに起立性低血圧もあり血圧管理も行っていたためさらに忙しい介入となりました。

 

 今後の課題としては、姿勢反射も依然として生じているためポジショニングの方法なども考えていく必要と思います。

 

4、治療結果

 

 治療の結果として、早期からSpO2が90%台後半、頭頚部・胸郭の動き、喘鳴が改善しました。肺胞呼吸音は聴取可能になりました。さらに本人の呼吸苦も改善しています。

 

5、あとがき

 

 評価によりリハビリを行うことで呼吸状態はけっこう改善したと思います。

 

 しかし、肺胞呼吸音には、ロンカイとコースクラックルが聴取されていますので、引き続きリハビリの必要があります。

 

 今回の介入をそのまま続けるだけでは足りません。

 

 肺炎を予防しないとより病態は悪化してしまいます。ですので肺炎予防に向けて介入を行わないといけません。 

 

 今後の課題としては、頚部のアライメント改善と筋緊張を亢進しないようにポジショニングをすることが必要になると思います。

 

 今後もいろいろと評価しながら患者様のためになることを提供していこうと思います。

 

 長くなりましたが、今後も患者様のためになることを書いていこうと思います。

 

 まだ勉強不足な点や技術の拙さがありますので今後とも精進あるのみです。皆様も何か今回のことで気になることがありましたらコメント等をよろしくお願いします。

 

 またアドバイス等もあればよろしくお願いします。