brainjack’s diary

解剖学やリハビリなど身体について深く考える。

転ばないバランス能力とは。そのためのリハビリは。

 転倒はその人の人生を左右する一大イベントになる瞬間である。その瞬間をどのように迎えるかでその後の生活が変わるのである。

 同じ日々を送ることができるのか。ベッド上で寝たきりか。明日することが変わってしまうこのイベントをどのように回避するのか。または起きるイベントの被害をどのように最小限にするのかがポイントになるだろう。

 

こんにちは。少し大げさな書き方をしてみた。しかしこれは僕の本心でだ。

 

 世の中の人、特に高齢者の中には転ぶ人と転ばない人がいる。その転ばない人と転ぶ人の間にある違いは何だろうということについて書いていこうと思う。

 

1、転ぶって何だろう?

 最近臨床をしていて思ったことがある。それはバランス能力の向上とはなんであるかでる。バランス能力の評価をするバランステストがあることは知っているし、臨床でもよく使っている。しかし単純に検査バッテリーの点数でみて、点数が良くなったからバランス能力が向上したんだと言い切れるだろうか。

 例えばBBSで36点が46点になったから屋内はフリーだねということは誰にも分らないと思うのだ。その一つ一つの項目の意味を・・・等いうことではなくて、もっと根本的なところに着目したいと思った。

 

 バランス能力が高いとは転ばないことであると私は考える。そうするとBBSの項目で減点されているものがあれば、その減点項目に類似した動作を行った場合転倒するリスクがあるということになる。でも実際病院を退院されてすぐ転ぶ人もいれば、転ばない人もいる。認知面の影響や高次脳機能の影響もあるだろうけど現実はそんな感じだ。

 

 私の担当した方でも何人かは転倒されて再入院していた。その際には「BBSでは点数取れていたし、ある程度自己管理能力もあったはずなのに。」としばし思うのだ。逆のパターンもある。転ぶだろうなと考えていた方が転ぶことなく生活されていることに驚くケースだ。

 この違いは何であろうか。たまたま転んだだけであろうか?それとも生活環境の違いか?身体の使い方か?わからない。

 

 そして悶々としながらも考え、一つの答えを出してみた。それは「分節的な身体の使い方ができるかどうか」だ。

 

 バランス能力とは転ばないこと。しかし人は転ぶ動物である。重要な違いは頻度と転び方だ。転倒しない人の身体の使い方はしなやか。きっと転倒する際も、重心をうまく下方へ下げて転ぶことができていると思われる。

 

 専門的に言うとしなやかな動きとは、脊柱の分節的な運動を行えるということ。これが今回の答えだと最近思っている。だから筋緊張の高い人はよく転ぶ。イメージとしては、片麻痺の患者様や整形的な疾患を持つ患者様でも筋緊張が上がってしまう人などである。なんにしろ身体が棒のようにして歩いている人はたいてい転ぶのだ。そうした方に行うリハビリは筋力トレーニングを行っていてもなかなかバランス能力が向上しなかったり、ガチガチに身体を固めて片脚立位の秒数を伸ばしたって結局転ぶのだ。

 

 そしてガチガチに身体を固めているから重心を下方へうまく下げて転ぶこともできない。また四肢の緊張も上がってしまっているから保護伸展反応も出現しないために頭部をぶつけたり、骨折したりする。骨折すると活動性が低下してさらに廃用症候群が進み徐々にADLが低下していくのだ。

 

 このような悪循環を避けるには転ばないようにバランス能力を向上させることが必要だ。具体的には分節的な体幹の運動を可能にするリハビリである。

 

2、考えの変化とリハビリの変化

 考え方が少し変わったら、少しストレッチと筋力トレーニングの考え方が変わった。

 

 必要な可動域は矢状面上の屈曲伸展運動だけではなく、また前額面上の動きだけでもない。水平面上の動きや関節の副運動も意識した身体全体としての動きを行うことである。転倒するときに関節はそれぞれの面上で崩れない。崩れに対しバランスをとるときには、必ず関節は複合的に動く必要があるからだ。

 

 筋力トレーニングは、10回全力で抵抗運動行って鍛えるよりも低負荷で分節的な運動を誘導しながら行う筋収縮を大事にするようになった。これは促通に近いのかもしれない。分節的に出来てきたら難易度を上げていく。従重力位で出来たら介助量を減らして抗重力位で行っていく。こんな感じだ。

 

リハビリのやり方を変えて気付いたことがある。

 1つ目が分節的な運動を行っているときは驚くほど筋活動は小さく、手に伝わる骨の動きがなめらかであること。

 2つ目が本人がリラックスしていること。呼吸は整い、表情穏やかで関節可動域練習や筋力トレーニング、動作練習を行うようになる。

 

 バランス練習の時の反応は、かなり小さい前後左右の運動である。片脚立位を行ってもやっぱりふらつきは出ている。けれどいろんな箇所が動き姿勢を保とうとする。これが大きな違い。バランスのとり方が違い、バリエーションがあるのだ。

 

 この後の歩行ではふらつきを認めても、何とか自力でふらつきをコントロールして歩けるようになる。もしも大きくふらつくことがあっても、筋緊張が高まりすぎていないからステップを踏むことができる。

 

これが転ぶ人と転ばない人との大きな違いであると思う。

 

3、最後に感想

 最近思ったことだしまだ練習の考え方を変えた後、退院した人もいないから分からない。もしかしたら再入院されるかもしれない。

 

 しかし以前よりもリハビリの質を上げることはできたと勝手に思っている。この考えに至るのに5年半かかっている。まだまだ考えが足りてないかもしれないし、間違っているのかもしれない。これからも考え続けよう。

 

 しかしたとえ間違っていても、新しい考えが私の臨床を豊かにする。豊かになれば患者様の「あれがしたい」を叶えることができるかもしれない。そんな患者様の前に立った時、自信をもってリハビリできるように準備していこう。そして患者様の「あれがしたい」が叶ったときに一緒に喜べたらいいなと思う。

 

 最後まで読ん頂きありがとうございました。これからも心のアンテナは常に張って気付いたことを書いていきます。よろしくお願いします。