後方突っ張りによる椅子乗車困難に対する姿勢制御のリハビリ
こんにちは、脳筋王です。今日は久しぶりに症例紹介をしていこうと思います。
まず今回の症例紹介の前にポイントを挙げます。今回のポイントは、感覚入力と姿勢制御についてです。
今日の目次
- 症例紹介
- リハビリ結果
- リハビリ内容
- リハビリの注意点
紹介する症例についてです。
- 臥床時から後方へ突っ張り股関節や膝関節の屈曲ROMエクササイズなどを行うと突っ張りが増強し関節運動が困難。
- 車椅子へ移乗する際に座位がとれずにほぼ立位姿勢になる。
- 本人の臥床時に関節の痛みや恐怖心も強く、座位になるとさらに筋緊張亢進が増加。
- 座位から車椅子へ移乗する際は股関節の屈曲を伴う(膝関節は伸展位)。
- 車椅子乗車後は股関節伸展と足部尖足により車椅子からずり落ちそうになる。
このような状態です。皆様ならどのようなリハビリをしますか。因みに廃用症候群の患者様様です。
次にリハビリを行った結果です。
- 後方の突っ張りは残存もかなり軽減。
- 車椅子乗車時股関節は80°程度屈曲、足部底屈位を呈しているがフットプレートへ接地可能。
- リハビリ時間内は車椅子上からずり落ち、転倒するリスクは消失。
- 痛みの訴えはなし。恐怖感の訴えは継続してみなれる。
- リハビリへの意欲が向上し、平行棒をみて「あそこに行かないと・・・。」などの発話が聞かれるようになった。
- 筋緊張が改善し、臥床状態でも下肢の屈曲運動を行うことが可能になった。左右股関節80°程度まで、膝関節は90°程度まで可能。
離床を行って1か月程度でこのレベルまで改善できました。今後は定期的な離床機会の獲得と筋緊張のコントロールの改善を目標に進めていきます。今後リハビリとして検討中です。
さてでは実際にリハビリで何を行っていったのか紹介したいと思います。
実際に行ったことは立ち上がり練習です。シンプル・イズ・ザ・ベスト。シンプルなだけに奥が深いですよ。
それでもなんだと思ったかもしれませんね。しかしポイントがあります。今日お伝えしたいことはやり方や目的意識で変わるということです。偉そうに聞こえたらすみません。しかしやり方ひとつで効果が変わるんだなぁとひしひしと僕自身が感じた部分もあり紹介しようと思いました。もうやっているよという方には当たり前かもしれませんが・・・。
実際のやり方というのは、今日のテーマでもある通り足底感覚を入れるということです。この方の立位姿勢は後方重心になってしまいます。ですので立位練習を行うにも後方に突っ張り、股関節は後方へ引けて踵が浮いてきます。
普通の立ち上がり動作のリハビリであれば股関節を伸展位に介助し、その上で足底の接地を促していくのではないかと思います。僕もそうしていました。しかし今回は立位アライメントよりも足底接地にポイントを絞り立ち上がり練習を行っているという点が重要です。
つまり問題点抽出の場面で、#1は後方への重心の偏りです。筋力や関節可動域ではありません。繰り返しになりますが問題点は、認知的な面で後方へ重心が偏位してしまっていることに注目していることになります。
アライメントが崩れていても許します。手順を順に列挙していきましょう。
①ひらがな「く」の字姿勢で立位になります。
②足底を前足部から踵までしっかりと接地させます。膝折れすることはありませんが、膝もしっかりと固定し、後方でズボンを摑んでいる手(体幹固定のために回している両手)で足底へ圧迫をかけて荷重入力を増加させます。
③筋緊張の変化をみて軽減が図れたら膝関節を軽度屈曲させながら股関節を伸展していきます。
④これを繰り返して軽度膝関節屈曲位と股関節屈曲位までもっていきます。もちろん足部の可動域制限がありますので股関節は膝関節よりも屈曲を許して言います。
⑤軽度股関節膝関節屈曲位の状態から前方への体重移動を誘導します。
⑥こんな感じで徐々に前方への荷重感覚を入れていきます。何回か繰り返したら車椅子へ正常な着座シークエンスを意識して座位にします。
⑦着座後足関節背屈を促すと膝関節の自動運動が出現したのでそのまま膝を屈曲してもらっていき踵を床にくっつけて足部を床面に全接地します。
⑧そしてまた立位練習とこの動作を繰り返しました。
リハビリ終了時にフットプレートにゆっくりと本人にも手伝ってもらって足部を接地していくと筋緊張が亢進することなく行うことできました。
1回のリハビリで得られたものではなく、4週間近く続けた結果です。最初は①と②を2~3週間毎日繰り返します。そして⑥を毎回意識して行い、その後⑦と⑧をやりました。そして筋緊張の状態をみてアライメントの修正や前方の体重移動を練習しました。これが3週~4週目です。このように段階分けてリハビリして現在に至ります。
リハビリ内容の説明をしていきましょう。
まず最大のポイントは、立位アライメントをいきなり修正しなかった点だと思っています。
倉松らの研究でも言われているとおり、長期臥床高齢者は座位における垂直認識がズレが生じてしまうことが分かっております。後方へズレた垂直認識は後方の突っ張り動作などの姿勢反射障害につながります。
理由
1つ目は、恐怖心が強いことが動作や言動から伝わってきたこと。
上記で示した通り、後方への重心位置が偏位しているということは前方へ正中までもっていくと前方へ崩れ層で危ないという認識になります。動作のポイントとしては、臥床や座位では股関節と膝関節がすごい勢いで突っ張るのに立位姿勢になったと途端に股関節が屈曲してくることです。正中まで座位で持っていこうとすると後方に重心を持っていこうとして股関節は伸展します。立位時は後方へ重心を持っていこうとするため股関節は屈曲し、足関節は底屈するわけですね。単に姿勢反射が出ている場合は立位では棒状に突っ張るため一枚の板のようになりますね。
2つ目が後方突っ張りの助長を防ぐためです。
「く」から伸展させようとすると抵抗感が強く後方への体重移動を助長させてしまうからです。問題点を後方への認知レベルでの重心の偏りとしてリハビリを開始しているためアライメントよりも足底の感覚入力を優先に考えたことからです。
3つ目のポイントは、足底感覚入力とアライメントの修正の前に「姿勢に慣れる」を加えること
「く」の字立位→なれる→筋緊張軽減→アライメント修正段階づけて行ったこと
高齢者(特に寝たきり高齢者)は、加速度への対応が苦手になります。そこで重要なのが慣れるまで待つという選択です。時間にして20秒程度でしょうか姿勢を保持します。時間は重要ではありません。少しでも介助下で筋緊張の軽減を感じたら姿勢を変化させることです。
4つ目が軽度屈曲位で姿勢保持と着座姿勢をしっかり意識して座ってもらうように誘導することです。
普段の臥床時求心性や完全伸展位での等尺性収縮を行い姿勢保持しているため屈曲位で空間に関節を保持する能力や遠心性収縮など収縮様式のコントロールを促すために意識して行いましょう。座位姿勢も抗重力姿勢になるため遠心性収縮と屈曲位での関節保持能力は大切だと思います。
後方へ突っ張りが著明で座れない患者様を担当する際や手立てがなく困ってしまった際に参考にしてみてください。1回の介入では少しの変化しか得られないかもしれませんが、数か月実施すると効果があるかもしれませんよ。
今回の症例の今後の展望としましては、現状少し座位練習可能なレベルになってきたので今後は座位練習を行っていきたいと思います。そして定期的な離床の獲得からADLの拡大と廃用症候群の防止につなげていきたいと思います。
参考文献
倉松由子:「長期療養高齢者の在における垂直位の認識について」
末廣健児:「感覚入力・感覚受容とそれに伴う運動の変化について」