brainjack’s diary

解剖学やリハビリなど身体について深く考える。

本人のやる気は待って出す。リハビリ意欲低下対策

こんにちは、脳筋王です。

 

今回のテーマ意欲低下対策として1つ方法を紹介します。

 「相手の反応をひたすら待つ」です。

これだけに徹することをオススメしたいと思います。

今日はこのテーマに沿ってまずどのような人に有効なのかと解釈、最後にいくつかある僕の臨床経験から1つ事例を紹介したいと思います。

 

では最初にどのような患者様に有効な方法か紹介します。

 

対象者になる3パターン

①季節の変わり目が不穏になるパターン

②生活環境の変化に対応できない。

③病棟内の生活で不満がある。

 

①季節の変わり目が不穏になるパターン

 精神疾患をお持ちの方に多い傾向にあります。こういう方の場合は環境というよりも自分の内面から出てくるものを処理できていないので外部からの刺激まで反応できません。そのようなときに拒絶して自分の中に引きこもり、他人から見て拒否の多い患者様が出来上がります。

 

②生活環境の変化に対応できない。

 これも季節の変わり目と同じなんですが、自分の生活環境の劇的な変化に対し外部からの刺激が強すぎるために混乱し、他者を遠ざけようとします。この時に他者を信頼できなくなるのでこちらの言うことを聞いてくれなくなります。

 少し専門的な話をすると、知識は流動性知能と結晶性知能という二種類の知能があります。この知能は、前者が環境の流れから推測したり、思考したりして新しいことを覚えていくときに必要な知能です。後者は過去の経験に基づいて行動したりする知能です。高齢者は流動性知能が低下することが分かっています。つまり環境適応が苦手になるのです。

 

③病棟内の生活で不満がある。

  このパターンの人も病棟スタッフの信頼が損なわれているため言うことに対し拒否的な対応をとってしまうがあります。

 このパターンの方は自発性は高いので要求を聞くことで、この人は私のために行動してくれる人だと信頼してくれることがあります。

 当然と言えば当然ですね。あなたのためにと説得したくなりますが、求めたときにそっけない対応するのにリハビリの時だけあなたのためだから起きてくださいは何を言っているのですか?と言いたくなりますよね。

 

このようなパターンの方には有効だと感じます。

 

 不穏な時はリハビリを行うにしてもやりたいことはできません。そもそも僕の考えですが、リハビリは患者様の目標をお互いに明確に意識し、相互の協力のもと目標に向かって努力していくことが必要になります。

 

そのためには信頼関係は必須だと思います。

 

しかし信頼関係とか言っても認知症があると意味ないのではと思うかもしれません。だって昨日やったことも覚えていない人とか・・・。

 

 認知症失語症の患者様だと説明しても忘れてしまうことや理解が難しい方はさらに関わり方に注意が必要になりますね。

 

 認知症の人でも脳血管性の記憶力の低下の人も何となく記憶に残すことは可能です。詳しい説明は省くとして、根拠としていくつか挙げておきます。一つ目が脳内では毎日新しく神経細胞が作られています。作られている場所は脳の記憶に深く関わりのある海馬という領域です。そして二つ目に神経はシナプスというものを介して情報を伝達します。このシナプスの強化を行うことで記憶の定着を可能にします。シナプスの強化には繰り返し同じ刺激を入れ続けることが条件になります。

 

 このような理由から認知症の患者様でも記憶の定着を図ることは可能です。また顔と名前を厳密に把握してもらうことは必要ないのです。

 

 ただ顔を何となく記憶してもらい。この人が来るとなんかいいことあったような・・・。ぐらいに認知してもらえればいいわけなんで。

 

事例紹介

 では最後になりましたが今日のテーマ「意欲低下」について、4年間対応してきて思ったことを話そうと思います。

 

身体機能の変化でざっくり説明します。

時系列は下に経過していきます。

歩行 (見守りレベル)

離床拒否

車椅子移乗 (中等度介助レベル)、立位保持 (一人介助、中等度介助レベル)

離床促しにて拒否の増加

車椅子移乗 (全介助レベル)、立位困難 (二人介助、ほぼ全介助レベル)

関わり方を変更

定期的な車椅子乗車実施可能

車椅子移乗 (中等度介助レベル)、立位保持 (一人介助、中等度介助レベル)

退院

 

このようになっています。元の状態まではいきませんでしたがなんとか定期的な離床までもっていくことができた事例です。

 

要点について説明していきます。

 僕の見ていた患者様も認知症がありました。入院当初はギリギリ歩けるかどうかぐらいの身体機能を持っていました。しかし入院してからずっと離床に消極的で車椅子に乗ることもできませんでした。

 

 リハビリに行き車椅子を見せて乗りませんか?と呼びかけてみますが、毎度乗らないと伝えてくるばかりです。そればかりか次第に易怒的になり顔を見るなり追い返すことや近づいただけで叩くなどの行動も頻回になりました。

 

 不動にしていたためか膝と足首が硬くなり動かすと痛みを生じるようになってしまいました。能力としては歩くどころか車椅子への移乗も全介助レベル。後方への突っ張りが生じており介助がかなり大変なレベルになっていました。

 

僕は担当として当時リハビリを実施していましたが、何もさせてもらえずにただ拒否られながら無理やり一緒にいるような状態でした。当初の僕の対応はとりあえず関節の拘縮を抑えるために痛みのある膝関節を動かしてしました。

 

しかしとあるときに入浴を介助浴で入れるのが厳しいという話を介護スタッフから聞かれてしましました。介護スタッフからもリハビリで離床してくださいと頼まれてしまう有様です。

 

いろいろ考えたのですがやはり無理やり離床しようとしても何も変わらないことに気づきました。

 

そして僕の気持ちも正直落ちてしまい、1単位での介入にしていました。叩かれるのも嫌だし、だからといって介入しないのも違うなという思いからそんな対応になってしまっていたと思います。

 

しかし仕事ですのである条件を自分につけることにしました。

①常に対応は笑顔を心掛ける。

②話の始まりは常に相手からにする。

③痛みが出ない範囲でストレッチを行う。

 

これだけです。離床につながる言葉を言わないだけでなく、話をこちらからしないレベルで聞くに徹してみました。

 

続けてみてまた新たに気づくことがありました。それはこちらが観察し注意して身体を触っていると伝わるということです。扱いが自然と丁寧になり、いたわっている態度はしっかり相手に誠意として届くものです。

 

1週間くらい関わっていると挨拶をしても易怒的な様子は消えていました。さらには自分から髭を剃ってと言ってきたり、ベッドを下げろなどのジェスチャーをしてくれたり、対応した後は満足げに頷くことや軽く笑顔(僕にはそう見えたレベル(笑))を見せてくれるようになりました。

 

最終的には3週間近くかかってしまったと思います。しかし自分から車椅子を指さす、杖を探すなどの自発的な行動につながり離床ができるようになりました。

 

ここで一番重要なことは、相手は認知症があるので次の日には顔も覚えていないような患者様です。

 

しかし認知できないとしても足を触りに来た人は自分に対して誠意を持って対応してくれると分かるようにはなるのでしょう。相手の態度は見る見るうちに変わっていきました。

 

誠意のある行動は相手に伝わるものですね。

 

結局入院期限が来てしまったため途中で退院となってしまいました。しかし3週間かけたとはいえ車椅子への定期的な離床は獲得できました。

 

さらに離床を全介助レベルではありましたが、起居から異常までを行い続けたことで後方への突っ張り軽減と関節部の痛み軽減は達成できました。

 

もう少し時間があれば移乗動作の介助量を期限出来たかもしれません(後の祭りですね・・・)。

 

しかしあのまま離床を促し、強い拒否を受けて毎回リハビリを続けていたらこうはなってなかったのではと思っています。

 

今回の件を通して僕は人を人として見ることの重要性に気付くことができ、この方には深く感謝をしています。

 

先にも説明したとおり専門的な知識を持っている方からすれば非効率ないし間違った対応だったかもしてません。

 

結果遠回りだったとしても良い方向に向けばいいと思います。

 

皆さんもこのようなことを経験することがあるのではないかと思います。 それで何をやってもうまくいかないのであればいっそ本人に主導権を委ねてみるのはどうでしょうか?

 

長くなりましたが皆様の臨床で新しい視点をもつきっかけになれば光栄です。是非関わり方で悩んでいたら一回試してみてください。